より深くわかり合うことができる
あえて「手書き」にこだわる内定者とのコミュニケーション

食用油業界大手のJ-オイルミルズでは、毎年20名ほどの新卒者を採用。内定者には、内定式で「フレッシャーズ・コース」を配布し、社会人としての常識を学んでもらっているほか、月に一度「コミュニケーション・ペーパー」の提出をしてもらう運用をしているという。今回は、そんなJ-オイルミルズの人財開発部・岡裕樹さんに、「フレッシャーズ・コース」の活用方法について詳しくお話を伺った。

 

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J-オイルミルズ 人財開発部 主任 岡裕樹さん

 

――まずは、J-オイルミルズの新卒の採用状況や、採用活動の概要などを教えてください。

 

 弊社では、例年20名ほどの新卒者を採用しています。会社説明会や大学での企業セミナーなどを実施するほか、学生のみなさんに会社や食品業界全体への理解を深めていただくため、インターンシップも実施しています。弊社は主な事業として業務用油脂(BtoB)や家庭用油脂(BtoC)などの「あぶら」の分野を手掛けていて、特に業務用油脂の国内シェアが高いのが特徴です。実は「あぶら」は一般的に知られているよりももっとおもしろい機能をたくさん持っており、弊社は「あぶら」の専門家集団として、「あぶら」がもつ様々な価値を追求し、可能性を拡げていくことで、社会課題の解決に貢献しています。インターンシップではそういったところからもなじみを持っていただく良い機会と認識しています。

 

――数年前から、新卒採用は「売り手市場」と言われていますが、現在の採用市場に対し、御社としてはどのような印象を持たれていますか?

 

 就活生の数自体が減っていて、必然的に採用の難易度が高まっていることは、たしかに実感としてあります。また、いわゆる優秀な就活生と、その他の就活生との間の“開き”が大きくなっている印象もあります。売り手市場という環境がそうさせるのかもしれません。こうした環境下で、当社での活躍を期待できる優秀な人財を確保する難しさというものを、毎年のように感じています。

 

――新卒採用の選考は、どのようなフローで行われていますか?

 

 原則として、面接は最終段階の手前まで、社員と就活生が1on1で話す形式をとっています。弊社は「人」を大切にしている社風でもあるので、そこに共感する人財に来ていただきたいという大前提があります。弊社が求めているのは、チャレンジ精神に富み、助け合いの精神を持ち、意欲やエネルギーに満ちた人財ですが、企業と就活生双方ともできるだけ理解を深めあっていくために、限られた時間のなかでもじっくり対話することを重視しています。

 

――内定から翌春に入社するまでの期間に、研修などは行われていますか?

 

 特に研修などは行っていません。内定式から実際に入社するまでに半年ほど空きますが、弊社ではその間、内定者に「フレッシャーズ・コース」を配布し、中身を読んでもらうこと、そして簡単なタスクに取り組んでもらっています。ビジネスマナーなどの社会人としての常識は、内定者それぞれに合わせてじっくりと教えるのがなかなか難しいものですが、「フレッシャーズ・コース」には一通りのことがコンパクトにまとめられているので、新社会人になる前段階の土台作りとして役立っています。一方のタスクとは、「フレッシャーズ・コース」の付録の「コミュニケーション・ペーパー」を書いて、月に一度人事部に提出してもらうというものです。

 

※「コミュニケーション・ペーパー」⇒内定者と人事担当者とのコミュニケーションツール。「フレッシャーズ・コース」の6巻まであるテキストに対応しており、各巻の内容を踏まえた質問が設定されている。内定者は、そこに自分の考えをまとめて記入⇒人事担当者に提出するというのが、ベーシックな活用方法。

 

――「コミュニケーション・ペーパー」には、「会社に内定した今の気持ちを書いてみましょう」「入社後に生かしたい、あなたの強みはなんですか?」など、取り組む人が自分自身を見つめ直すことにつながるような質問が並んでいますが、御社では「コミュニケーション・ペーパー」のどのような点に着目し、内容を見られているのでしょうか。

 

 「コミュニケーション・ペーパー」の質問事項はシンプルですが、その人自身の価値観に切り込むようなものばかりなので、その回答には、内定者一人ひとりの個性がよく表れていると感じます。選考過程と、懇親会や内定式で話しただけでは、内定者がどんな人物なのか、深いところまですべてを掴みとるのは難しいものですが、この「コミュニケーション・ペーパー」を都合6回やりとりすると、相手の意外な一面が見えることもあり、より深い理解に繋げることができたりするんです。

 

――意外な一面とは、たとえばどんなところですか?

 

 大人しそうな印象の内定者が、実は情熱的な側面を持っていたり、真面目で固そうに見えた内定者が案外ユーモラスがある方だったり、色々です。基本的に、良い意味で裏切られることがほとんどです。当たり前のことですが、履歴書や短時間の会話だけでは、見えていなかった部分もたくさんあるものだなとつくづく感じます。

 

――「コミュニケーション・ペーパー」を内定者に記入してもらううえで、何かルールなどは設定されていますか?

 

 内容は自由に書いてもらっているのですが、書き方のスタイルとして、いくつか弊社独自のルールを設けています。まず、手書きでボールペンを使って書くこと。必ずスペースの3分の2以上を埋めること。箇条書きではなく文章で書くことや、期日に必着で届くように提出することなどもルールとしています。これは深く考えるクセを付けてもらうことや、ビジネスシーンでは当然であるような事にも少しずつ慣れてほしい、というねらいであえて設定しています。最近は学生に限らず、手書きで長文を書く機会なんてめっきり減ってきているでしょうから、毎年みんな、なかなか苦労しているようですね(笑)。でも、手書きにすることで、さらに様々なことがわかると感じます。この人は下書きをした形跡があるし、字もきれい。きっと時間をかけて丁寧に取り組んでくれたのかな、とか。字が乱れているときは、時間がなくて焦ってやったのかな、とか。まれに、余白に絵を描いてくる内定者もいます(笑)。紙面をどのように使っているのかもまた、それぞれの持ち味や息づかいが見えてくるようで面白い。期日必着で郵送提出するルールにしているのも、期日をしっかり守るだとか、宛名に「御中」という言葉をつけるといったような、社会人としての常識を練習する機会と見なしています。みんな真面目に取り組んでくれていて、先ほど挙げたルールを破ったり、締め切りに平然と遅れたりするような内定者はまずいません。たまに、期日ギリギリになってしまったのか、バイク便で届く、なんてこともありますが、どんな手を使ってでも間に合わせようという気概が偉いと思いました(笑)。

 

――提出された「コミュニケーション・ペーパー」に対し、人事部としてはどのような対応をされているのでしょうか?

 

 先ほども申し上げたように、弊社は「人」を大切にし、相手と向き合うことが大切だと考えています。そのため、「コミュニケーション・ペーパー」に関しても、相手と誠心誠意向き合いこちらの息づかいも伝えたいという意味で、人事担当者が手書きでコメントを返しています。それも、単純なひと言コメントではなくて、それぞれに手紙を書くようにコメントを書くので結構時間はかけて取り組んでいます。今はそのコメント係を私が担当しているのですが、私自身、10年以上前に内定者だったときは、同じように手書きで「コミュニケーション・ペーパー」を書いて提出し、手書きのコメントを返してもらっていました。内定者からすると、人事部はずいぶん面倒なことをやらせるな、と思うでしょうし、私自身も同じ立場のときにはそう感じていた気がしますが、今となっては理由があってやっていたことなんだな、と実感しています。

 

――内定者と人事担当者が、あえて手書きでやりとりすることで、人事担当者は相手への理解を深めることができ、内定者のほうも、無自覚かもしれませんが、内省の機会を得ると同時に、会社に少しずつなじんで、社会人としての準備をすることができるわけですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。