7月31日(月)、東京日比谷のイイノホール・カンファレンスセンターにて、『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔著 ダイヤモンド社刊)の刊行を記念し、著者であるヤフー株式会社 上級執行役員コーポレートグループ長 本間浩輔氏による「成長を促す対話『1on1』ライブ&トーク」と題するセミナーを開催。企業の人事・人材育成担当者約160名の方にご参加いただいた。

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本間氏は冒頭で「『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』を上梓した後、様々な企業の人事担当者から問い合わせをいただきました。その中で、『個別に対応するのではなく、ぜひ多くの人とディスカッションする機会ができたら』と考えていたので、今日は多くの人に集まっていただけて嬉しいです」と挨拶し、第1部が始まった。

 

<第1部:1on1を強力に推進する理由について聴く>

テーマとなっている「ヤフーの1on1」とは、ヤフーの社内で行われている、週に1度30分間、上司と部下との間で対話するミーティングのこと。部下の目標達成と成長支援を目的として2012年から本間氏が中心となって始められ、今では全社的に浸透している。

はじめに本間氏は、ヤフーで行われている1on1の取り組みについて、いくつかのポイントに絞って説明した。書籍の冒頭に描かれているマンガの一コマ目に描かれている「今日は何の話をしましょうか」と、上司が尋ねるシーンを示し、「これは、1on1の根本的な思想を示している気がします。1on1は部下のためのもの。進捗報告の場でも、報連相の場でもなく、部下が話したいことを話す場であるということが1on1の根幹的な考え方なのです」と説明した。他にも、ヤフーが1on1おこなう上で重要な「どのようにして自分で考えさせる問いかけをするか」「上司の役割は部下を輝かせる、部下の『才能と情熱を解き放つ』ことである、という価値観をどのように広げたか」といったポイントについて解説。途中で、近くの人同士で話しあったり、質疑コーナーを設けたりなど、理解を深める時間を取りながら進められた。

また、本間氏は、ヤフーで1on1を社内に広めようと考えたきっかけについて、自身が週に1度、パーソナルコーチと話すことで内省を深められた経験から、「ヤフー社員1万人全員が毎週コーチングを受けることができれば、爆発的な成長を遂げることができるのではないか」と考えたからと話した。そして、「同じ部署の小向洋誌氏が1on1について語った『ちゃんとした1on1をやると、業務時間のすべてが研修になる』という言葉を聞き、導入してよかったと感じましたね」と加えた。

第1部の最後に、本間氏は大事にしている言葉として「development」を挙げた。「経営学ではdevelopmentを『開発』と訳しますが、私は心理学らしく『発達』と訳すのが好きです。人事、人材開発は人の成長、発達を邪魔することなく、まさに『才能と情熱を解き放つ』ための舞台を用意すればいいのではないか、という考えにいたっています。人も組織も本来はよい方向へ成長する発達するということを信じ、それに寄り添い支援する、という気持ちから、developmentという言葉にはこだわりがあるんです」

 

<第2部:実物を観て、自身でもやってみる>

休憩を経て、第2部では、会場から協力者を募り、本間氏とリアルな1on1模擬セッションが行われた。

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本間「今日は何を話しますか?仕事のことでなにか思いつくことは?」

参加者「そうですね…。MBOのことですね。それぞれに納得感のある評価ができているのだろうかと」

本間「納得感が重要と言ってましたが、納得感は重要ですか」

参加者「そうですね。納得感がないと『次からは頑張ろう』という気持ちになれないですよね」

本間「なるほど。『次から頑張ろう』と思える評価にしたいと思っているんですね」

参加者「はい。それにはやはりコミュニケーションを取って、お互いの共通認識がつくれるようにしたいですね」

本間「共通認識をつくるためになにからやりますか?」

参加者「それこそ1on1とか…」

本間「明日からできそうなことはなにかありますか」

参加者「まずは週に1度、1on1を始めてみようと思います」

本間「僕に手伝えることある?」

参加者「行き詰ったときに、相談させてください」

 

会場での即席セッション後、会場からは「基本的に、相手がしたい話をしているだけなので、話しやすそうに思った」との感想が寄せられた。それについて、本間氏は「コーチングやカウンセリングをしっかりとやるためには専門的な知識や技術が必要。しかし、全社的に誰にでも1on1をやってもらうためには、専門的なスキルがない人にやってもらう必要がある。それならば、ひたすら傾聴するだけ、相手の話を聞くだけの『アクティブリスニング』にすれば、リスクが少ないのではと考え、傾聴中心のやり方をとっている」と話した。

また、別の人からは「1on1を重ねていくうち、1on1がなくても上手く回るようになるということはないのか。また、1on1が必要な部下と必要ない部下がいるのではないか」という意見が出た。これに対し、本間氏は「それはいいご意見だと思います。ただ、一つ考えてほしいことは、どれほど分かりあっていると思っている人同士でも、本当に大事なことを話しているだろうか?ということです。働き方改革が進み、リモートワークやフリーアドレスなどリアルなコミュニケーションが減りつつある中で、敢えて大事なことを話す時間を取る必要があるのではないか、というのが僕の考えです」。さらに「今後、AIが発達することを考えると、人間の能力をどうやって引き出すのか、人材開発の仕事はますます重要になってくるように思います」と加えた。

その後、参加者が隣同士でペアになって、実際に1on1をやってみるリアルセッションが始まった。本間氏は、聞き手側のキーワードとして

「今日、何話す?」「今度なにする?」「何を学んだ?」

という3つの問いかけをしていくようにと指導。また、「そんなに一生懸命聞く必要もなく、上手くといかけする必要もないです。基本的には相手のためのものなので、聞き手は壁打ちの壁と思って、気楽になってみてください」とアドバイスし、セッションスタート。

会場では一斉に隣同士の1on1セッションが始まった。

<第3部:参加者からの質問を軸に会場全体で対話する>

続いて、「ダイアログ・セッション」に移った。会場からの質問に本間氏と、ヤフーで1on1を推進するスタッフの吉澤幸太氏、コンサルタントの立場から1on1の普及に努めるODソリューションズ・由井俊哉氏の3人が答えた。

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もっとも関心が高かったのが「1on1によって、どのような成果が上がったか」という質問だった。

吉澤氏は、「1on1は役に立っているか」というアセスメントを定期的にとって検証している、と回答。とくに部下側の視点で役に立っているかと尋ねる問いに対し、実施4年目に入った時の調査では「役に立っている」「まあ役に立っている」という回答が90%を占めたということだった。

本間氏は、『成果を何か数値で示すような「KPI至上主義」は好きではない』とし、ここまで5年、1on1が制度として続いているという事実が、役に立っていることを証明している、と述べた。

ほかにも「1on1で上長と部下の関係が強くなる反面、部下同士のつながりが弱まることはないか」という問いに対し、本間氏は「横のつながりを作る努力が必要」と回答した。

 

セミナー後のアンケートを集計したところ、「1on1を実施している」と回答した参加者が43名、「実施を検討している」が33名という結果だった。寄せられた質問がリアルなものが多かったのは、そのためだろう。

総じて参加感が高く、熱気に満ちたセミナーだった。

 

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